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Nゲージで遊んでみる #1 — 制御・通信・自動運転までの実験計画

2026-09-23 🧵 Nゲージで遊んでみる
目次

甥っ子が電車にはまっている。プラレールを持って走り回る姿を見ていて、ふと「鉄道模型なら通信や画像処理の実験台になるのでは」と思いついてしまった。 思いついてしまったものは仕方ない。

調べてみると、Nゲージなら車両を走らせるだけでなく、給電、組み込み制御、無線通信、画像処理をひとつの小さな環境で試せる。うまくいけば、最終的には自動運転まで試せそうだ。

そこでこの連載では、KATOのNゲージをベースに、走行・給電・制御・通信をひとつずつ組み上げていく。 今回は、その全体像と実験の順番を整理する。

Nゲージ実験で走行、可視化、通信、自律化へ進む全体像 純正走行からカメラ・通信・自動運転へ、模型鉄道を小さな実験環境として育てていく。

この連載で試したいこと

やりたいことは大きく4段階に分かれる。

  1. 走らせる — Nゲージとしての基本走行を確認し、車載マイコンからモーターを制御する。
  2. 見えるようにする — 車載カメラの映像と、電圧・電流・加速度などの状態をLinux PCへ送る。
  3. 通信を比べる — Wi-Fi、レールを使った電力線通信、mini-LCX相当の沿線通信の3方式を試す。
  4. 自律化する — 位置推定、自動停車、運転計画へと進み、分散システムやPhysical AIを試す。

最初に決める基本方針

一般的なNゲージは、レールにかける電圧を上げ下げしてモーターの速度を変えるアナログ制御で走る。今回の実験ではこの仕組みを使わず、次の方針で組む。

  • レールには原則としてDC 12Vを常時供給する。
  • 車載DC/DCコンバーターでマイコン用の5Vまたは3.3Vを作る。
  • 動力車のモーターはレールから電気的に切り離す。
  • ESP32-C3とHブリッジで、モーターの回転方向と速度(PWM)を制御する。
  • Linux PCからの指令と車両からのテレメトリーは、まずWi-FiとMQTTで運ぶ。
  • ポイント、信号機、在線センサーは地上側ESP32にまとめる。

Nゲージ実験環境の全体構成 Nゲージ実験環境の全体構成

この方式なら、レールをカメラやマイコンの共通電源として使いながら、列車の速度は車上で独立に制御できる。複数編成へ拡張するときにも、編成ごとに速度指令を分けやすい。

一方で、これは純正の使い方から外れた改造になる。実験時は電流制限、ヒューズまたはリセッタブルヒューズ(PTC)、非常停止用の電源遮断を入れる。また、純正パワーパックと自作の12V電源は同時に接続しない。

Phase 0〜10のロードマップ

実験はPhase 0からPhase 10までの11段階を想定している。各Phaseの測定結果を見てから、次のPhaseの回路や方式を決める。

実験ロードマップ 走行確認から始め、車上制御、通信、自動運転の順に積み上げる。

Phase 0:まず純正構成で走らせる

純正構成で基本走行とポイント通過を確認する 純正のパワーパックで基本走行を確かめてから、待避線とポイントへ進む。

最初はスターターセットとマルチメーターだけを購入し、付属のパワーパックで基本周回線を走らせる。 速度を変えながら、カーブ通過、最低始動電圧、走行の安定性を確認する。問題なく走ったら待避線用の電動ポイントと線路を追加し、ポイント通過も試す。この段階ではポイントを手で切り替え、車両も改造しない。

Phase 1:車載カメラをUSB給電で試す

USB給電した車載カメラから映像を送る 車載カメラをUSB給電で試し、映像、搭載サイズ、画角、連続動作を確認する。

XIAO ESP32-S3 Senseだけを追加購入し、まずはUSB給電のまま映像を送る。当面の成功条件は、640×480程度の映像をPCにリアルタイムで表示でき、10分以上連続で動作すること。搭載サイズや画角に問題があれば、車両に手を入れる前のこの段階で方針を見直せる。

Phase 2:レールからカメラへ給電する

レールの12Vを整流、平滑、降圧してカメラへ給電する レールの12Vを整流・平滑・降圧し、安全対策を入れて車載カメラへ供給する。

ここで初めて車両に手を入れる。 車両の向きでレールの極性が変わっても使えるよう、レールの12Vをブリッジ整流し、DC/DCとコンデンサーを通してカメラへ供給する。走らせながら、電圧、Wi-Fiの切断回数、カメラの再起動回数、フレーム落ちを記録する。ここでも、純正パワーパックと自作の12V電源は同時に接続しない。

Phase 3〜5:車両と地上設備を遠隔制御する

モーター制御、ポイント制御、テレメトリーを段階的に実装する 車上モーター制御、地上側のポイント制御、双方向テレメトリーを順に組み上げる。

Phase実験確認すること
3車上モーター制御ESP32-C3、Hブリッジ、PWMによる速度・方向制御
4ポイント自動制御地上ESP32からHブリッジ経由で短い極性反転パルスを送り、切り替える
5テレメトリーレール電圧、モーター電流、PWM、RSSI、IMU、温度、FPS、遅延

ポイントは常時通電せず、切り替えるときだけ極性反転パルスを与える。

車両への指令は、まず次のような小さなJSONから始める。

{
  "train": "E7-01",
  "speed": 0.35,
  "direction": "forward"
}

車両から返すデータも、最初は扱いやすいJSONにする。

{
  "train": "E7-01",
  "speed_cmd": 0.35,
  "rail_voltage": 11.8,
  "motor_current": 0.13,
  "wifi_rssi": -51,
  "imu_accel": 0.12
}

Phase 6:狙った位置に止める

カメラと地上センサーによる自動停車を比較する カメラ認識と地上センサーを比べながら、停止位置の精度を段階的に高める。

自動停車は2方式を比較する。

  • 車載カメラで駅やマーカーを認識し、距離を推定する。
  • 地上の赤外線・磁気センサーで列車の通過位置を検出する。

停止位置の目標精度は、まず±50mm、次に±20mm、最後に±10mmと段階的に厳しくする。 結果は平均誤差だけでなく、ばらつきとオーバーランも記録する。

Phase 7〜9:通信経路を増やして比べる

Wi-Fi、レール通信、沿線通信の3方式を比較する 同じ列車に対してWi-Fi、レール通信、沿線通信を使い、通信品質を比較する。

Phase 7では、DC 12Vが流れているレールに通信信号を重畳し、地上から車両への一方向通信を試す。Phase 8で双方向化し、地上からは速度指令や停止指令を送り、車両からは電圧、電流、IMUなどを返す。

Phase 9では、線路脇に同軸ケーブルと小型アンテナを分散配置し、mini-LCX相当の沿線通信を試す。LCX(漏洩同軸ケーブル)は、線路沿いに敷設して列車無線に使われる、電波を少しずつ漏らす同軸ケーブルだ。本格的なLCXを最初から自作するのではなく、複数のアンテナを一定間隔で置く構成から始める。

3方式の向き不向きの見込み(◎〜×)と、主に観察したい点は次のとおり。

方式制御テレメトリー映像主な観察対象
Wi-Fi◎◎◎一般的な無線通信の基準値
レール通信◎◎△〜×電力線への信号重畳とモーターノイズ
mini-LCX相当◎◎◎位置による電波品質と沿線カバレッジ

3方式に共通して測るのは、遅延、ジッター、パケット損失、スループット、RSSIだ。そのうえで、列車速度、線路上の位置、ポイント通過、モーターノイズとの相関を見る。Wi-Fiは最後まで残し、レール通信や沿線通信の実験中も比較用・非常用の経路として使う。

Phase 10:Physical AIへつなぐ

画像認識から運転計画、安全制御、車両とポイントの操作へつなぐ 画像認識・ワールドモデル・運転計画の出力を、安全制御を通して車両とポイントへ渡す。

最終段階では、PC上に画像認識、ワールドモデル、運転計画を置く。 ただし、AIの出力はそのまま機器へ渡さない。停止判定など安全に関わる部分は、AIとは独立した制御層で検証する。

Physical AIを含む最終構成 AIの出力をそのまま機器へ渡さず、安全制御を通して車両と地上設備を動かす。

例えば「E7を1周走らせ、駅の手前で減速し、ポイントを待避線側へ切り替え、ホーム中央で止める」という高水準の指示を、AIが運転計画へ変換する。PWM値やポイント駆動パルスはAIが直接出さず、下位の決定論的な制御器が生成する。

購入品

必要な機能を満たす範囲で、組み合わせも含めて最も安くなるように選んだ。価格は2026年9月24日に確認した税込価格で、送料がかかる出品は送料込みで示す。価格は変動することがあり、両面テープなどの細かな消耗品は含まない。

車両と線路

優先度品番商品数量用途確認価格購入先
必須10-006スターターセット E7系 北陸新幹線「かがやき」1E7系3両、基本周回線、パワーパック、ACアダプター16,109円Amazon
必須20-202電動ポイント6番 左1待避線の分岐1,600円Amazon
必須20-203電動ポイント6番 右1待避線の分岐1,464円Amazon
必須20-000直線線路 248mm(4本入)2待避線(6本使用)1,310円Amazon
必須20-038PC直線線路 64mm(4本入)1待避線(2本使用)661円Amazon
必須20-150曲線線路 R718-15°(4本入)1待避線(2本使用)584円Amazon
必須24-818ターミナルユニジョイナー 90cm112V電源からレールへの給電線271円Amazon

スターターセットの車両は10-1980のE7系基本セットと同じで、ほかにM1相当の基本周回線、フィーダー線路、リレーラー、パワーパック「スタンダードSX」(1.2A)と専用ACアダプターが含まれる。車両と線路セットを別々に揃えるより安く、ほかの車種のスターターセットと比べても、いま在庫がある中では安い部類に入る。

待避線は、V1待避線セット(20-860、6,173円)と同じ構成の線路をばらで揃える。V1との違いはポイントスイッチ2個が付かないことだけで、その分554円安い。電動ポイントは手でも切り替えられ、Phase 4からはESP32で動かすので、スイッチがなくても困らない。

12V電源は、スターターセットのフィーダーを切らずに済むよう、別に買ったターミナルユニジョイナーからレールへ入れる。パワーパックは最終構成では出番がなくなるかもしれないが、Phase 0の動作確認と、改造後に不具合が出たときの切り分けに使える。車両・線路の合計は21,999円だ。

制御用の電子部品

優先度部品購入単位用途確認価格購入先
必須Seeed Studio XIAO ESP32-S3 Sense1個先頭車のカメラとWi-Fi4,501円Amazon
必須ESP32-C3 SuperMini2個セット動力車・地上制御930円Amazon
必須Mini-360 DC/DC降圧モジュール2個セット車載マイコン電源295円Amazon
必須TB6612FNGモータードライバー2個セット動力車の正逆転・PWMと、地上のポイント駆動942円Amazon
必須ANLINK 12V 2A ACアダプター(PSE取得品)1個レールの常時給電1,399円Amazon
必須DCジャック ネジ端子アダプター 5.5×2.1mm10個セットACアダプターと給電線の接続512円Amazon
必須ポリウレタン銅線 0.32mm 20m1巻車内の配線599円Amazon
必須INA219電流センサーモジュール1個レール電流・モーター電流の計測499円Amazon
推奨1N5819ショットキーダイオード10本セット2台分のブリッジ整流(8本使用)530円Amazon
推奨海渡電子 25V 470µF低ESR電解コンデンサー10個セット瞬断対策639円Amazon
推奨0.1µFセラミックコンデンサー100個セットモーターノイズ対策599円Amazon
推奨0.5Aリセッタブルヒューズ10個セット過電流保護489円Amazon
推奨5〜36V MOSFETスイッチモジュール2個セット非常停止用の電源遮断380円Amazon
後工程MPU-6050 IMUモジュール1個加速度・振動計測490円Amazon
後工程TCRT5000赤外線反射センサー5個セット在線・通過検知599円Amazon

地上側のポイントも極性反転パルスで動かすため、TB6612FNGは動力車用と地上用の2個を用意する。1個で2チャンネルあるので、地上用の1個で左右2つのポイントを駆動できる。

ESP32-C3は、XIAOとほぼ同じ大きさで安いSuperMiniにした。個体によってWi-Fiの感度が低いという報告があるので、Phase 5でRSSIを見て問題があれば、XIAO ESP32-C3(1個1,470円)に替える。DC/DCのMini-360は、MP1584ENよりひと回り小さく、車内に収めやすい。出力電圧を半固定抵抗で合わせる方式なので、マルチメーターで5Vに合わせてからマイコンにつなぎ、合わせた後は半固定抵抗を接着剤で固める。

車内の配線にはポリウレタン銅線を使う。被膜がはんだの熱で溶けるので、極細線用のワイヤーストリッパーがなくても配線できる。

はんだ付けと測定の道具

優先度道具用途確認価格購入先
必須DT-830D デジタルマルチメーター(ブザー付き)電圧・電流・抵抗・導通を確認する。Phase 0で購入625円Amazon
必須はんだごて14点セット(60W・温度調節式、PSE認証)200〜480℃で調節できるこて。こて台、こて先5本、はんだ、吸取器、吸取線などを含む1,690円Amazon
必須LEONTOOL マイクロニッパー(ストリップ穴付き)細い配線や部品のリードを切る。地上側の電線の被覆をむく569円Amazon
必須耐熱シリコンマット机を熱と溶けたはんだから守る498円Amazon

マルチメーターは、12V前後の直流電圧、数百mAの電流、導通が測れれば足りるので、最も安い部類のDT-830Dにした。はんだごてセットには吸取線とこて台が含まれるため、別に買う必要はない。

段階的な購入費用予定

実験段階この段階で購入するもの追加費用累計
Phase 0前半:基本走行E7系スターターセット、マルチメーター16,734円16,734円
Phase 0後半:ポイント通過電動ポイント6番 左・右、待避線用の線路4箱5,619円22,353円
Phase 1:USB給電の車載カメラXIAO ESP32-S3 Sense4,501円26,854円
Phase 2前半:工作環境を作るはんだごてセット、マイクロニッパー、シリコンマット2,757円29,611円
Phase 2後半:レール給電Mini-360、12V ACアダプター、DCジャック、ターミナルユニジョイナー、ポリウレタン銅線、1N5819、470µF・0.1µFコンデンサー、リセッタブルヒューズ、MOSFETスイッチ、INA2196,212円35,823円
Phase 3〜5:車両・ポイント制御とテレメトリーESP32-C3 SuperMini 2個セット、TB6612FNG 2個セット、MPU-60502,362円38,185円
Phase 6:自動停車TCRT5000赤外線反射センサー599円38,784円
Phase 7〜9:レール通信・沿線通信結合回路用部品、同軸ケーブル、小型アンテナ、コネクター類。方式と周波数をPhase 6までの結果から決める未計上38,784円+通信実験部品
Phase 10:Physical AIここまでの機材と手持ちのLinux PCを再利用0円38,784円+通信実験部品